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Pucelleダイヤリー

オタ話全開と親バカ日記 たまにSSも載せてみたり

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「堂上氏とある公休」 「いざ、突撃」の後日談です。

それでは、畳んだ先からどうぞ^^
その影響

 

 

 始業間近の特殊部隊事務所は何かと騒がしい。

 訓練に出る班、地下書庫や館内警備、市街哨戒、または館員として業務する館内業務、そして他館応援で出払う班など。

 50余名の屈強な男達が、決して広いとは言い難い事務所内を右往左往するのだから、部外者が見れば、そこが関東図書隊特殊部隊庁舎内だと知らなければ、とある筋の事務所だと怖気づいたとしても無理はないだろう。

 

「手塚。何も聞かずにこれを受取って」

 そんなまるでけたたましい音楽のような喧騒の中で、郁が副班長を務める所属班の班長である手塚に差し出したのは、一本の缶コーヒーだ。

 本日は市街哨戒が主な業務である手塚班。

郁が身につけているのはカーキー色の略式戦闘服でも、それが威圧的に見えないのは、四月になると恒例行事のように新隊員から同期だと間違われる童顔(大抵はその直後に郁の三等図書正の階級章に、新隊員達は慌てるのだが)に加えて、近頃はそれでも一応は人妻としての色気も備わって来ているせいだ。

薄化粧を施した郁が、大きな目を愛らしく輝かせ、小首をかしげながら缶コーヒーを差し出せば、そこからは「鬼教官」を始めとした「熊殺し」「ブラッディ」「鬼軍曹殿」の異名は浮かばない。ただただ、頬をゆるめながら缶コーヒーを受取る筈だ。

だが、手塚はそうはならなかった。

手塚班が編成され、班長の任についてからますます堂上に似たと言われる眉間の皺を深くし、まるで目の前に差し出されている物が不審物でもあるかのように凝視していた。

そして訝しげな顔をそのまま郁に向けた。

「これは何だ?」

「何って、コーヒーに決まってるじゃん」

「それは見れば分る。このコーヒーの裏には何がある? 何か仕出かしたか?」

 缶コーヒーがさも姿を変えた時限爆弾かのように扱う手塚だが、それは手塚にとって冗談でなければ比喩でもない。真実、これ以上胡散臭いものはないと思っているのだから。

 郁がこんな顔と仕草をした時には、かなりの高確率で何かをしでかしてる。

 これは図書隊入隊以来、郁と同期同班として付き合ってきた過去から学んだ教訓だ。

「や、だなぁ~。手塚ってば考えすぎだってー。何もしてないよー」

 あはは、と笑う郁の目は、しかし確実に泳いでいる。

 じゃ、これから何か仕出かすつもりか。

 たかが缶コーヒー1本、されど缶コーヒー1本だ。

この1本によって被るかもしれない迷惑を想定すれば、到底素直に手を出せるものではない。手塚にすれば当然の警戒なのだ。

そんな手塚の内心を読んだのか、郁が「言っておくけど、別に何もしないからね!」と唇をとがらせたが、すぐに愛想笑いバレバレの笑みを浮かべて来た。

「まぁ、手塚にはいつも迷惑かけてるし、世話にもなってるからさ。ほんと! それ以上の意味はないから!」

 力説されればされるほど、怪しい、全くもって怪しい。

 こいつの言葉をそのまま鵜呑みにすれば、あとで手痛いしっぺ返しがくる。

 手塚の脳裏によみがえったのは、数年前のある夜、痛飲した時に郁から渡されたスポーツドリンクだった。あの時はお陰でとんでもない目にあい、ほとんど今でもトラウマだ。

 これはやはり断るべきか。

 

 缶コーヒーを睨みつけるように動かない手塚に、傍で見ていた堂上班の班長と副班長は苦笑気味だ。

「どうしたの。いくら笠原さんだって缶コーヒーに仕掛けなんて出来ないだろうから、気にしないで受取ればいいだろ?」

 確実に面白がっている小牧が口を挟んできた。

「ちょっ! 小牧教官! 仕掛けるってどういう事ですかぁ! 人聞きの悪い事言わないでくださいよ!」

 小牧の冗談を真に受けたように郁が抗議すると、小牧は「ごめんごめん」と軽く笑っている。

 ふと小牧と並んで経っている堂上に手塚が視線を移せば、郁の夫でもある堂上はまだ苦笑いを浮かべているようだ。それでも手塚の肩を二度ほど叩くと、妻のフォローをすべく口を開いた。

「郁の言うとおりだ。あのコーヒーでお前に実害がくるわけじゃない。あいつが手塚に日頃からフォローしてもらってるのは事実だしな。こいつの気持ちだ、受取ってやってくれ」

「……堂上一正がそこまでおっしゃるなら」

 日頃から尊敬の念を抱き続けている上官の言う事だ、なにを不審がる必要がある。

「なら、遠慮なくもらう。ありがとな、笠原」 

手塚はようやく差し出された缶コーヒーを受取った。手塚が受取った直接原因が夫のとりなしであっても、郁は満足げに「うん」と頷くともう一本、同じ缶コーヒーを鞄から取り出すと、今度は小牧に向かって差し出した。

「小牧教官も、どうぞ受取って下さい。いつもご面倒かけます。感謝しております」

 両手で少し頭を下げながら缶コーヒーを差し出す郁に、次はそれまで手塚を笑っていた小牧が固まる番だ。

 不意だった為か、日頃弱みを見せない小牧が素でとまどったようだが、そこは百戦錬磨の笑い仮面である。すぐに気を取り直すとトレードマークの柔和な笑みを浮かべて、郁から缶コーヒーを受取った。

「別に俺は、笠原さんに感謝してもらえるような事はしてないつもりだけど。でも、有り難く受取らせてもらうよ」

 今日は暑くなりそうだし堂上班は屋外訓練だから、休憩時間に大切に飲ませてもらう。

 スマートに一声を乗せて特殊部隊事務所の冷蔵庫に缶コーヒーをしまう小牧だ。その辺のそつのなさは手塚にはなかなか真似のできるものではなかった。

 郁は二人に缶コーヒーを渡した事にいたく満足した様子で、それは形のいい敬礼を手塚に向けると、それは機嫌良く部下である吉田を引き連れて市街哨戒へと出発していった。

 堂上班も続くように屋外訓練施設へ向かっていった。残るは手塚と安達である。

 

 堂上一正はああ言ったが、やはりこの缶コーヒーの裏には何かがあるような気がしてならない。

 飲んだ後でとんでもない騒動に巻き込まれるなんてことは……郁に限っていえば、なくもないのだ。

「手塚教官てば、堂上教官から缶コーヒーを貰えるなんて、羨ましいですー」

 本日のバディである「堂上教官大好きっ子」の安達が、心底羨ましそうな視線を缶コーヒーに向けていた。

 もしこいつが笠原から缶コーヒーをもらったりした日には、一日舞い上がってすげぇ事になりそうだな。

 一瞬、そんなに欲しいならこの娘っ子2号にくれてやるかとも考えたが、そうした場合の郁のむくれが想像しただけでも面倒くさかった。

「じゃ、安達も笠原からご褒美がくるように励むんだな」

 手塚も小牧同様、市街哨戒から帰ってきてから飲むべく、冷蔵庫に缶コーヒーをしまった。

 その際、名前を書いた付箋を缶コーヒーにつけておくのは、特殊部隊の重大なお約束だ。

「きゃぁ! はい! 安達、堂上教官からご褒美がもらえるように頑張りまーす!」

 ぱっと見、どこのギャルだと突っ込みを入れたくなるような嬌声を上げる安達だが、彼女のこの現象も郁が絡んだ時のみだというのは、既に周知であるから気にも留めない。

「よし、なら俺達も市街哨戒にでるぞ」

「はーい!」

 まぁ、堂上一正が実害はないというのなら、それを信じよう。

 安達を引き連れて特殊部隊庁舎を出た頃には、手塚の中では缶コーヒーの案件は片付いていた。

 

 

§

 

 

 そして屋外訓練施設に向かっている小牧もまた、笑みを顔に張り付けたまま傍らを歩く堂上に問いかけていた。

「ところで、あの缶コーヒーには本当に意味はないんだよね? まさかうっかり飲んだ瞬間ババを引き当てたって事はないよな?」

 事務所ではああ言って受取ったけれど、やはり気になるのは相手が郁だからだ。

「ああ、実害は何もないし、これからもない。手塚にも言ったが郁の気持ちだ、安心して飲んでやれ」

「そう? そう言う事なら気にせず御馳走になるかな」

 小牧もそれ以上は深くは考えてはいないようで、缶コーヒーに関してはこれ以上話題にされる事はなかった。

 

 

§

 

 

 屋外訓練施設で訓練前のストレッチをしながら堂上が考えていた事は、郁が手塚と小牧に渡した缶コーヒーだった。

 あのコーヒーに実害はない。

 そう堂上は手塚と小牧に断言した。それに嘘はなかった。

 こちらの世界の小牧と手塚への実害はない。

 害を被っているのは……あちらの世界の手塚と小牧、もとい、主にテヅカなのだから。

 

 

「ぎゃぁ! テヅカごめーん!」

 魔王との最終決戦も間近となった郁のRPGゲーム。

 今夜も郁の悲鳴と魔法使いテヅカに謝り倒す声が、堂上家のリビングに響く。

 かつてはレベルが低すぎるままに先を進み、強くなっていく魔物についていけなくなっていたのも、今は昔だ。

 あれから堂上の指導のもと街から街へ移動する際にも、レベル上げを考慮しながら進む術を郁は身体で覚えていった。

 それでもやはりレベルを上げる為だけに淡々とバトルを続けていくのは苦手だったようで、堂上自身も甘いと自覚しながらも、時々レベル上げと最強装備取得の手伝いをしたものだ。

 その成果もあり、今や勇者イク一行はかなりの能力を身につけ、イクも勇者限定の攻撃特技を持っている。

 これならばこのゲームがエンディングを迎えるのも、そう遠い話ではあるまいと堂上は確信し、次は何のソフトを欲しがるかと有名どころのソフトをざっと頭に並べてみたりもしているのだが。

 ここにきてRPG慣れをしてきた郁に、妙な癖がついてきた。

 魔物への攻撃をする際に、ターゲット指定ボタンを押す指が、つい勢い余って動いてしまうのだ。

 このシリーズは攻撃を指示するにも回復や補助を指示するにも、敵味方両方にターゲットを絞る事が出来るようになっている。

 だからこそ味方が混乱状態になった時に、かるい攻撃を与える事で正気に戻せるのだが、これは諸刃の刃でもあった。

 敵への攻撃を指示する際に誤って味方へロックオンをしてしまう事があるからだった。

 ゲームを始めた当初はバトルに慎重だった郁も、慣れてくるにしたがってコントローラーの操作も早くなったが、同時に味方を攻撃するというミスも目立ち始めてきた。

 敵モンスターが数体だった場合は、目的のモンスターではないものの、それでも敵への攻撃指示に変わりはないのだが。敵が1体になった時やボスキャラとの戦いだと高確率で味方が被害を受ける。

 この場合は、何故かテヅカがターゲットになる場合がダントツトップであった。

 今日も敵の本拠地に迫るダンジョンでのボスキャラとの戦いで、テヅカに必殺技を繰り出してしまった。

 

 通常ボス戦では、バトルコマンドを「ガンガンいこうぜ」ではなく「命令させろ」にするのが常識なのだが、今回は圧倒的に勇者一行のレベルが上回っているのが災いした。

 わざわざ各キャラに指示を出さなくても倒せると踏んだ郁が、コマンドを「みんながんばれ」に固定していたからだ。

 このコマンドなら攻撃と回復、補助を好配分にコンピューターが判断してくれるから楽といえば楽。

堂上にとってみればボス戦でこれはで楽しさ半減だろうと思いはしても、郁はこのダンジョンでのストーリーの方が気になるらしく、とにかくバトルはさっさと終わらせたいようであった。

 なるほど郁はRPGゲームの世界でもキャラ読みが徹底しているらしい。

 しかし、固定コマンドにしたお陰で郁が勇者イクへの攻撃指示し、ターゲットを指定、決定ボタンを押せば、もう後戻りはできないのだ。そして、攻撃指示もターゲット指定も決定も押すボタンは同じときている。

 指定と決定の間に何もしなければいいのに、つい郁に言わせれば方向キーに手をかけた指が動いてしまうのだそうだ。うっかり成分にもほどがある。

 

 魔法使いテヅカが勇者イクにされた攻撃は勇者の必殺技ともいえるものだった。

 しかもその直前に敵に痛恨の一撃をくらっていたテヅカのHPは残り少なくなっており、そこに勇者必殺技がきたのだから、ひとたまりもない。

 即HPが0となり勇者によって瞬殺されたテヅカだが、そこを今は賢者となった小牧が蘇生魔法で蘇らせてくれた。

 このパターンがここ数日、何度か起きており、いくら相手はゲームのキャラだとはいえ、同じ名前の身近な友人と上官に申し訳なくなってきた郁なのであった。

 たかが名前とはいえ、影響はあなどれない。

 

 その詫びのつもりでもある缶コーヒーなのだが。

 

 まさか自分達の名前がゲームで使われ、果てはテヅカがイクのうっかりで何度もHPが0になり、そこをコマキが蘇生や回復でフォローをしてくれるから、その詫びと礼だと説明したところで、された方もとまどうだろう。

 小牧にいたっては上戸の荒波にダイブしないとも限らない。

 手塚が深くため息をつく姿まで目に映るようだ。

 

 そして堂上にとっては、ゲームでテヅカを攻撃してしまった時の郁の慌て様や、コマキに恐縮している姿が可愛くて、思い返しただけでも頬がゆるんでくるのだ。

 だが今は訓練中である、気を緩めた堂上のどこを小牧がつついてくるか分かったものでもない。

 

 昨夜、郁が見せてくれた可愛いうろたえ顔を、無理矢理に意識の奥底にしまいこんだ堂上の顔は、いつもの2割増し仏頂面であったという。



RPG大好きっこ梨菜子です^^

こういう事ってありませんでしたか?(笑)
ドラクエやFFで間違えて味方を攻撃しちゃったり、敵を回復しちゃったりWW
私は時折やらかしておりました^^;

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プロフィール

HN:
梨菜子
年齢:
3
性別:
女性
誕生日:
2022/01/15
自己紹介:
FF10と金色のコルダ、図書館戦争にはまりまくりのオタ母です

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